ご挨拶

 日本は、一万年以上続いた平和な縄文文化という世界でも比肩するものが無い独創的な土壌の上に、外来の文化を取捨選択して取り入れ、それらを日本に合うように作り変え熟成させた独自の伝統文化を長く紡いできました。文化人類学者のレヴィ・ストロースは「日本は(国外から)多くのものを受け取りました。けれども、それらをすべて入念に濾過し、その最上の部分だけを上手に同化したので、現在(1988年)まで日本文化はその独自性を失っていません」(「世界における日本文化の位置」)と述べています。
 その日本文化と深い繋がりがあるのが古代インドです。古代インドの神々は日本に伝えられて日本の神々になり、インド発祥の仏教は日本の仏教になりました。それら古代インドの文献はインドの雅語であるサンスクリット語で記録され伝えられています。日本において、伝統的な漢文仏教典籍購読の期間を経て、サンスクリット文献を扱う学問として初めて講座が開設されたのは、京都帝国大学の松本文三郎による文学部哲学科のインド哲学史講座(1906年)、そして東京帝国大学では高楠順次朗の梵語学講座に続き、1916年に村上専精による印度哲学講座が専任講座として開設されました。その後、日本では世界で活躍し得る多くの学者が輩出されていますが、昨今はサンスクリット文献を扱う講座そのものが減少、統合され、学究の場が少なくなっているのが現状です。日本人の学生に対する国からの支援も十分ではありません。今後とも日本人の学生や研究者が勉学、研究を続けられる環境を維持し、日本から世界水準の研究がうまれる土壌を保つことは、日本の国益に資するのみならず世界に対する貢献でもあります。今まで先達が繋いでこられた印度古典学、仏教学の伝統を維持するためにも、この「一般財団法人神戸サンスクリット奨学会」が役立ち、日本にサンスクリット文献学に対する理解がより深まることを願っております。 代表理事 岡崎一英